クロイツェル / 東京都

「ドイツの本物の味を食べて欲しくて作りました」

「ドイツの本物の味を食べて欲しくて作りました」

ドイツ製法手づくりハム・ソーセージの専門店として東京都町田市成瀬台に、1992年開業したクロイツェル。自家製のソーセージ、ビーフジャーキーから調味料のマスタードまで、本場ドイツのレシピを取り入れ、力強い味を感じる商品は日本唯一。そんなこだわりの一品を作られているオーナー吉岡さんにソーセージの魅力からペアリングまでノーカットで語っていただきました。

  1. 登山中に食欲を復活させたのがソーセージだった。
  2. 製薬会社を脱サラし、夢だったビジネスオーナーに。
  3. クロイツェルのパラエティ豊かな商品ラインナップ。
  4. DLG国際品質協議会で金賞を獲ったマスタードとは。
  5. クロイツェル流のおすすめな食べ方。
  6. 今年のテーマは”温故知新”

登山中に食欲を復活させたのがソーセージだった。

−ソーセージ作りのきっかけはいつだったのですか。

大学で醸造学科という発酵や醸造などそういうものを勉強していました。酒とか味噌、醤油、酵母、酵素、麹のことです。それと並行して小さな頃から山登りをずっとやってまして、マッターホルンという山があるのですがずっと登りたいなというのが夢だったんですね。

大学3年の夏休みに、ヨーロッパに行って有名なところだとモンブランとかマッターホルンとか、もうちょっと難しいところにも登ってまして、もうそれこそ4000メータークラスを上がったり下がったりを毎日毎日繰り返して、きついんですよね。

その山登りの合間に自炊をしてるわけです。あんまりお金もないですからね。ずっと自炊していたのですが、ある日とてもバテた時がありまして、水も違うし米が食べれないからですね。食欲が全然なく夏バテみたいになった時に、一緒に行った先輩が僕のためにポトフを作ってくれたんです。

ポトフの中にヴァイスブルストという白いソーセージが入っていまして、そのソーセージが初めて食べた味、食感だったんですね。食欲がなかったんですけど、すごく美味しくて、食欲が無くて何も受け付けないような状況だったんですけど、これは食べられるもんで「こんなことあるんだな」と思ったんです。

それでそのあとすぐ夢中になったわけではないんですけど、食品の事を大学でもやってきていて、理解できなかったんですよね。なんでこういう食感でこの味になるのかと。

それともう一つ不思議に思ったことがあって、1985年当時ソーセージ専門店ってヨーロッパではいくつもあったんですけど、日本ではそういうのお店をあんまり聞かなかったんですよね。それで「そういうお店は成り立つのかな、日本に帰ってもまたその白いソーセージ食べたいなぁ」と思ってました。

それから、日本でも伊勢丹だったり百貨店に行って探すんですけど、同じものは中々ないんですよね。これでもない、あれでもないって探してるうちに、ハマっちゃって。もともとそんなにソーセージのことを好きでもなかったんですけど、探してるうちにどんどん食べて好きになりましたね。

製薬会社を脱サラし、夢だったビジネスオーナーに。

それで就職活動の時に、大手のハム会社の研究室と製薬会社の両方に内定をもらったんです。迷った末に医療にも興味があったのとスイスの企業だったのでスイスに行けるかなと、単純に思って製薬会社に入社しました。

製薬会社では日本全国に出張が多かったです。それで各地で、ソーセージを買っては食べてと同じことを繰り返してました。それで勤続15年が経った時に、会社から休暇と金一封をもらったんです。

それまでも海外に行くことが多かったので、今更行きたい場所はなかったんです。でも、たまたま僕の幼馴染がドイツに住んでいて、ドイツと日本のハーフの方なんですけど「結婚式に来てくれ」と招待状が来たんです。ちょうどタイミングよく、時間もお金もあったので行こうかとなったんです。

ドイツに行ってからは、毎日ビールとソーセージを食べて、食べているうちに「やっぱりドイツのソーセージは違うな、うまいな」と思ったんです。家内と子どももドイツをとても好きになっちゃって、食事もそうだしてもカルチャーも気に入って。

その後も日本に帰ってきて製薬会社の仕事をしていたんですけど、入社して12年目ぐらいの時に、たまたまクロイツェルの先代がお店の後継者を探してたんですよね。

「もう歳なのでそろそろ引退したい、誰か志ある人がいないですか」っていうことを知って、ちょうどその仕事が途切れるところで、次どうしようかなと感じていたのと重なったんですよね。

自分でもビジネスオーナーになりたかったんです。ビジネスオーナーって言ってもメーカー系のオーナーになりたかった。何かを作って売る。パン屋さんでもケーキ屋さんとかと同じイメージです。それで僕はソーセージが好きで、製薬会社ではマーケティングを担当した経験があった。

でもメーカーの世界っていうのは、若い頃から修行してがあたりまえの世界で、ヒエラルキーが出来上がっているんです。不安もあったんですけど、クロイツェルの先代も脱サラしてやり始めていたんですよ。それで、自分の考えを先代に話したら意気投合しまして。

先代も前はサラリーマン。私もサラリーマン。考えてたこともほぼ一緒。これだったらいけると思って、事業承継の契約書を作って、じゃあこれでどうですかねって言いました。

それで、まだすぐにというわけにはいかないってことで、3年半共同経営ということになって、その3年半の間に日本とドイツで色々勉強して、今日に至っています。

クロイツェルのパラエティ豊かな商品ラインナップ。

−オンラインサイトでもたくさんの種類の商品を見たのですが、どのくらいのペースで新商品を出されているんですか。

平均したら年に5から6種類くらいですかね。ECサイトに載せてないのもあるんですよね。ECサイトに載せてるのはお店にあるうちの8割くらいですね。

−そんなに新商品を出されているんですね、自家製の商品はいつもどのようにして作られているんですか。

ドイツのマイスターにならって、レシピを教えてもらってスパイスも合わせて自家製で作っています。ドイツの向こうの味をそのままを再現して伝えたいなっていうのが根本にあって、クロイツェルの事業承継をする時も、このお店のこの味だったらっていいかなって思ったんです。ドイツに極めて近かったんですね。

実は先ほど話した幼馴染が日本に住んでいた時に、そこの家庭にずっと入り浸っていたんですね。英語もそのお母さん教えてもらってみたいな。それでドイツの文化にも親しみを持っていて、色々ドイツの料理を食べさせてもらっていたりしたんです。それで幼馴染の結婚式でもドイツに行ってドイツの食を楽しんで、だから向こうの「ドイツの味を伝えたいって」そういう気持ちなんですね。本物の味を伝えたいということなんです。

ドイツのソーセージやハムって混ぜ物にしたらダメなんですよ。日本は混ぜてもOKで、ゆるいんですね。でんぷんとか大豆とかで水増しすることもあるんですね。別にそれはそれでソーセージが安く買えるから全てが悪いわけではないんですけど、ドイツは混ぜ物がダメな分、肉の味がどっしりしてるんです。だからビールに合うんです。

たまに各地で行われているソーセージやビールの催事やイベントでは、クラフトビールに合うソーセージだと力強い味じゃないと負けてしまうんですよね。市販されている甘い、ライトなソーセージだと味が負けてしまいます。

それからビーフジャーキーは黒毛和牛のものと国産牛のもの、2種類作っています。黒毛和牛も国産牛も美味しいんですよね。100グラム作るのに、200グラムくらいの肉を使うんです。お子さんも喜んで食べてくれますね。

ベーコンは昔ながらの作り方で作っていて乾塩法っていうんです。塩で漬けてスパイス入れてってやって。これでカルボナーラなんか作ったらすごく美味しいんですよ。カリカリベーコンを作るのにもぴったりですね。うちのベーコンは昔の作り方をしてるんですけど、他の大手はやりたがらないくらい手間がかかってるんです。

最近、熱いのはこれ。発酵ソーセージ。発酵ソーセージはサラミなんですけれどもドイツではすっごい人気なんですよね。”ランドイェガー”っていうのが正式名称なんですけど。これは牛肉と豚肉を合わせてスモークして、それで熟成させたものなんですね。ランドイェガーを齧りながらビール飲んでスポーツ観戦が最高です。ランドイェガーは東京だと作ってるのはうちだけじゃないかな。

DLG国際品質協議会で金賞を獲ったマスタードとは。

−お肉だけではなくて調味料のマスタードも作られているんですね。

マスタードは何で作ったかって言うと、もともとフランスの”ディジョンマスタード”という有名なマスタードをつけて食べていたんですけどちょっと酸っぱいんですよ。それで焼いたソーセージにおいて食べたら、どうしてもお皿に残っちゃうんですよね。

燻製にした茶色いソーセージっていうのは酸味を帯びるんです。そのソーセージに酸味のあるマスターズつけたら、より酸っぱく感じちゃうんですよね。ディジョンマスタードはポークソテーとかビーフステーキとか、プレーンでちょっと甘みのあるようなお肉とかにつけるとベストマッチだと思うんです。

一方でドイツで生まれたマスタードって、酸味をちょっと抑えてるんですね。だからたっぷりソーセージにつけて食べるられる。

日本でも探してたんですけど無くって、マスタードはどちらかというと脇役になって欲しいんですけど、日本で市販されているものだとちょっと味にクセがついちゃっているので主張しすぎかなって思ったんです。

−食事の時にタップリつけて食べていただきたいという思いがあったんですね。

例えば、大間のマグロを粉ワサビで食べるより本ワサビだし、旬のかつおのたたきならチューブの生姜じゃなくておろし生姜で食べて欲しいとか、そんな感じなんですよね。

どうせなら美味しいソーセージには美味しいマスタードをつけて食べて欲しいです。でも無いから作らざるを得なかった。最初は「作りたいな」くらいだったんですけど、ドイツで勉強させてもらったマイスターがいい人で、レシピを送ってやるよって言ってレシピ集を送ってくれたんですよね。

意外とね、マスタードは作るの難しいんですよ。レシピの組み合わせでいろんな人のサポートもあってついに2013年頃に3年かけて完成したんですよ。

−そのマスタードが金賞を獲ったんですね。

そうです。こういう小さいお店でありがちなのが、店主の自己満足で美味しい美味しいって言って「井の中の蛙で微妙だ」なんてことは多いもんです。

自分自身もそれが分かっていたので、美味しいって感じてるんだけどドイツのマスタードとして成立するかどうかを認めてもらえるのか、という気持ちもありました。

それでマスタードができた年に、ドイツのソーセージに合うマスタードとして”DLG国際品質協議会”(ドイツ農業協会が開催する食品の品質を競う世界大会)っていうドイツのコンテストに出場したんです。

DLGは世界で一番歴史があって大きな大会なんですね。だから一番権威のあるところで認めてもらいたいと思って出品したんです。それでマスタードを出して、金賞を獲ったんですね。一安心という感じがしました。

−マスタードは全部で何種類くらいあるんですか。

7種類です。最近出したのはワサビマスタードですね。

−日本人にはワサビマスタードは受けそうですね。

これを作ったのもうちで熟成肉を出していて、熟成肉ってマスタードと合わないんですよね。ローストビーフとかもそうなんですが、ちょっと「味殺し」というか。ちょっと作れないかなと思って、それであのワサビのピリッとした感じと合わせて作ったら美味しかったんです。

クロイツェル流のおすすめな食べ方

−どの商品が吉岡さんのおすすめですか。

全部食べて欲しいんですけど、ヴァイスブルストとメットブルストは一押しです。ヴァイスブルストは僕が初めて食べて衝撃を受けたやつです。メットブルストが粗挽きのポーク100%のソーセージですね。

ヴァイスブルスト、メットブルストどちらも胡椒やジンジャーなどスパイスが色々入ってるんで、味が豊かになるのと何よりも体の消化吸収を助けるんですよ。

なぜドイツソーセージが美味しいかって言われると、スパイスを巧みに使ってるからだと思ってるんですよ。肉をずっと食べ続けると、消化がきつい時ってあるじゃないですか。ただそのスパイスで対応することによって、漢方薬を一緒に食べながらその肉を食してるみたいな感じなんです。

それぞれスパイスのレシピが全て違うんですよ。牛肉に合うレシピ。ポークに合うレシピっていう感じで。

他だと、フランクフルトですね。フランクフルトって牛肉入れずにポークを入れるところが多いんです。でもうちは牛肉を入れてるんですよ。ウインナーにしてもそうなんですけど、ポークじゃなくて牛肉を入れるのが元々のオリジナルレシピなんですよね。

ポークウインナーが好きな人が多いんですけど、僕は”牛肉が入っているのがウインナー”っていうこだわりがあって、牛肉だとコクがあるんです。

それから、ダントツでカイザーハックが売れてますね。サラダの上のトッピングでも、オープンサンドみたいにしていただいても合います。中に入ってるグリーンペッパーがピリッとしていて辛さがいいですね。

上にハーブが乗っていて爽やかなので、パクパク食べられるんです。どれも平均して売れるんですけど、カイザーハックだけは他の3倍ぐらい売れてるんですね。お客さんからは「朝食にも合うし、ビールにも合う」って聞きますよ。

うちの商品にビールを合わせるならヴァイツェンとか小麦が強いものとかが合いますね。

−ビール以外のお酒にも合う商品はありますか。

豆腐でハムを作ったんですけど、それに合わせるために”ワイングラスでおいしい日本酒アワード”という日本酒のコンテストで金賞を受賞した日本酒をここに置いてるいまして、それに合いますね。

ビーフジャーキーの場合は、スモークをかけていて力強い味がするので、ウイスキーの中でもちょっとスモーキーな感じがいいですね。アイランズウイスキーが合うんじゃないですかね。

文化的にソーセージは欧米のものだと思うので、どちらかというとワインとかビールとか、そういうものが合わせやすいと思います。

−吉岡さんは普段、晩酌をされますか。

好きなものはしますね。ビールスタートのワインとか、ビールスタートの日本酒、ビールスタートの焼酎とかですかね。クラフトビールを飲むことが多いですね。発泡酒も飲むんですけどクラフトビール結構好きですね。

今年のテーマは”温故知新”

−ありがとうございます。こだわりの商品はどんな方に食べてもらいたいですか。

ズバリ、「本格的な美味しいソーセージを食べたい」と思ってらっしゃる方ですね。きっと海外旅行に行ったりして本場の味を知っていたり、あるいはレストランなんかでちょっとアップグレードしたソーセージを食べたことがある方です。

そういう方は食卓を美味しいもので豊かにしたいと考えていると思うんです。少々お値段がかかったとしても、「どうせなら、クラフトビール」とか。「どうせなら、ちゃんとしたソーセージ」とか。

−今後はどんな商品を作りたいですか。

今年のテーマは温故知新なんですけど、伝統的なドイツのソーセージの味をブラッシュアップして、新しいオリジナルなものを発信していきたいです。

Director’s Voice

大学時代の時の経験が元になり、本場のドイツの味を探し求め作ってきた吉岡さん。優しい笑顔の裏には大変な商品開発までの苦労が見え隠れしました。町田から発信するソーセージ皆さんもいかがでしょうか。

Junki Tada

クロイツェルについて

店舗名クロイツェル
住所〒194-0043
東京都町田市成瀬台2-16-2
TEL042-725-2231
職人インタビュー 2020.03.05
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